ビジネスモデルの雑感 - リプレイスとクリエイションタイプ

新年明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願い致します。

さて、ビジネスモデルの話しをしていると、1,000億円市場を狙え!って話題が出てくる。
まだ見ぬ新市場が1,000億円あるぜ!って、フェルミ推定したところで前提は如何ようにもなるので、
これってアンゾフのマトリックスで言うところの「既存市場」×「新スキーム」を指すのだと思う、リプレイスタイプと呼ぶ。

つまり既存プレイヤーからの顧客をリプレイスするということ。

これだったら市場の成長スピードを危惧することが無いし、既存サービスに不満タラタラユーザーの課題を解決すればいい。
(スタートアップが既存スキームで乗り込んだところで既存プレイヤー、特に大手からシェアは取りづらい)
それと既存市場のプレイヤーに対して新スキームで乗り込むメリットは、コスト構造を突きやすい点が挙げられる。

単純な例でいうと、人材市場で企業から広告費を頂くモデルだとする。そこには大手が蔓延っていてほぼ寡占状態としよう。
そこにソーシャルメディアを活用した「友人を介したリクルーティング」モデルの新スキームで乗り込んで上手く言った場合、
大手は広告費モデルで事業が成り立っているので、ソーシャルメディアを活用したモデルに転換したくても、(自己否定を)簡単には出来ない。
この場合どうするかというと、経営戦略論では子会社を作って利益相反を避けるように教えられている。


おっかないのが「新市場」×「新スキーム」の組み合わせでやるビジネス、クリエイションタイプとでも呼ぶ。
市場の成長スピードや規模感がつかめない、市場の読み違いを起こしてしまうリスクが高いためだ。


市場を考察する上で、フィリップ・コトラー大先生は購買意欲を以下の3つに定義している。

1. ニーズ:欠乏を感じている状態

2. 欲求 :ニーズが具現化された状態

3. 需要 :欲求に購買力/購買行動が伴う状態


「新市場」×「新スキーム」の場合、ニーズ(欠乏を感じている状態)から欲求(ニーズが具現化された状態)、
そして需要(購買力がある/購買行動を伴う)までのプロセス形成に時間が掛かる。
つまるところ顧客候補が課題と思っていないこともあるので、教化しなければならず、コストが高くつき、
スタートアップが啓蒙活動しても簡単に何とかなるもんでもない。
既存市場の場合、需要が明確にあるわけで(お金が流通しているから市場)、リプレイスにのみ注力すれば良いといえる。


市場の読み違いが起こる原因の1つは “欲求 = 需要” と勘違いする場合かもしれない。
欲求がある顧客候補がいたとしても、ドンピシャのソリューション(バリュー・プロポジション)を提供しないと需要は換気されないし、
欲求だけでは市場形成とは言えないので、ここら辺は勘違いしないように気をつけないといけない。


で、ここで1つ疑問が。新しいスキームで既存市場からパイを奪うというのは、市場成長に寄与出来るのか?
新しい価値提案が出来るけど、顧客のスライドでしかないとの考えもある一方で、今まで動かなかった層も動くかも、という淡い期待もある。
ここらへんはまた別の機会で考えてみようと思う。

ピッチとプレゼンの違い

先週の19日(金)にサンブリッジグローバルベンチャーズ社とベンチャーウ社が共催している
“Innovation Weekend 2012 Autumn”というスタートアップイベントに参加してきました。
コンテンツは「スタートアップアクセラレーターの役割」というセッション、スタートアップによる「ピッチ」でした。
ザオリアはベンチャーウ社に運良く推薦され、LaunchAppというサービスのピッチに参加させてもらえました。


今回のイベントにはメンバーが同行して、彼からのフィードバックを聞いて俄然としました。

それは、「プレゼンとピッチ」は別物だと…。


アクセラレータプログラムでピッチのトレーニングを受けたことが無かったのと、
今まで大手勤めやMBAでトレーニングを受けていたため、ファクトやデータを満載にしてロジックを中心にプレゼンをするものだと
叩きこまれてきました。


| ピッチとは「直感的にオーディエンスへ伝わるか」が大切

LaunchAppのピッチは以下の流れで作りました。

1.今どんな事が起こっているのか ・・・スマホの普及
2.環境変化の例え話       ・・・1850年代のゴールドラッシュ
3.問題定義           ・・・スマホアプリのヒット(金を探り当てる)に苦労している
4.ソリューション        ・・・クラウドソーシングでユーザーテストを行う
5.ソリューションの工夫点    ・・・ユーザーの意見を引き出す心理学理論や、競争戦略の経営理論
6.チーム紹介          ・・・何故我々がこのビジネスをやるべきなのか

と色々なピッチを研究してみて、大体この流れを踏襲していたので、右に挙げたようなストーリーを展開しました。


■細かい部分はオーディエンスが直感的に判断できない

まずこれが「クライアントに提案するときのプレゼン」と「初めてプロダクトを見る人へ説明するピッチ」の違いだなと。
前者は事前にヒアリングやデータ集め、インタビューを重ねて一緒に課題をあぶり出しているので、共通認識があるわけなのです。
だから、ロジックが通っていないであったり、ヌケモレを徹底的に排除しないと「ヨシ、これでソリューションの目処が立つ」と思われないのです。

一方ピッチの場合は全く逆で、初めて聞く人が対象なので(ターゲットはきちんと想定しています)、課題が共有されていないということです。
なので、「共感接点」や「言われてみればそうだ!」という感覚を持ってもらうことが大切だと再認識しました。


■言葉の使い方は諸刃の剣になりえる

2つ目の失敗はビジネス用語や経営理論を使ってしまいました。

オーディエンス = 初めて聞く人なので、共通の認識が無いことになります。直感 = 過去の経験によるものから判断されるので、
具体的にイメージしづらいものは極力誰でも知っている言葉に落とし込まないといけないなと痛感。
用語や理論は便利なようで、実はあまり知られていないということもあり見事に罠にハマってしまいました。




| ピッチで意識すべきポイントは3つ

サービスをピッチするときは、オーディエンスが直感的に分からないものは徹底的に排除するべきでポイントは3つです。

1. 課題を共有出来ていないという前提に立ち、いかに共感接点を作り出すか

私が好きな、というよりかは魅了されてしまったのはスティーブ・ジョブズによる“Macbook Air”発表会の場でのシーンです。
登壇の場で机と椅子が置いてあり、おもむろに椅子の上に置いてあった封筒を手に取り、その封筒の中からMBAを取り出す、
という演出をしていました。
一瞬で「封筒の中にパソコンが入るのか!?」となったわけです。これは本当に上手過ぎる共感接点の作り方です。


2. ビジネス/専門用語などは極力使わないこと

LaunchAppはテスターから良いフィードバックを引き出すための仕掛けがあります。
心理学の理論に則り質問設計をしており、この事を説明したのですが全くオーディエンスには伝わらなかったです。
誰々が作った理論で、人間心理の〇〇を突いたから、良いフィードバックが引き出せるのです、と説明した所で一瞬で「なるほど!」と
なりませんでした。


3. オーディエンスは意外と短気

ピッチイベントにおいて、短い時間とは言えオーディエンスはたくさんのピッチを見ることになります。
そのため、分かりやすい構成というのはこんなんじゃないのかな?というオススメの基本構成があります。

A.共感
何らかの課題を解決するものなのか、あるいは何らかの新しい体験を提供するものなのか。
最初の入りでオーディエンスの視聴態度は決まります。

B.ソリューション
共感してもらった課題や楽しさを、どんなサービスで解決するのか、あるいは実現するのかを説明する。

C.ユーザー獲得
最初のマーケティングはどういうことをやってユーザーを獲得していくのか、
なぜユーザーは使ってくれるようになるのか、ということを伝える。事業のKSFが分かりやすいと、「なるほど!」となるかと。

D.ビジネスモデルとマーケット
どうやってビジネスするのか?も簡潔に説明する必要があります。1つ注意することがビジネスモデルとサービスモデルは別物です。

E.チーム
素晴らしいアイデアでもそれを実現するのが、どういうメンバーがやっているのか。
バックグラウンドや強みなどを端的に表現すると良いかと思います。



オーディエンスから質問が来て、たくさん学べるのがピッチイベントに出場することのメリットでもあります。
やはり、ピッチをしてこのプロダクトを使って見せたいと思わせるかが、これから必要なスキルになるとよく分かりました(今更感?)


最後になりますが、ピッチの構成を考える上で参考になりそうなTEDをご紹介します。
パフォーマンスが秀逸です、お時間ある時に是非ご覧ください。

・ダニエル・ピンク「やる気に関する驚きの科学」


・サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか

Google for Entrepreneurs Tokyo 2012で表彰されました!

9月26日(水)にGoogleが主催する、Google for Entrepreneurs Tokyo 2012という
スタートアップイベントに行って来ました。


まぁ...、全世界で開催されているスタートアップを支援するイベントですね。

当日はDeNA共同創業者の川田さんの講演、ピッチと並行して別部屋でGoogleのProduct紹介、表彰式、
PM Directorのケントクさんのスピーチという流れ。
メインコンテンツはスタートアップ12社によるピッチです。
幸いザオリアは事前審査を通過して、この12社の中に選ばれました。


エレベーターピッチの審査員は以下の通りで、とても豪華な顔ぶれにちょいとビビりました。
・川田尚吾氏(株式会社ディー・エヌ・エー 共同設立者/エンジェル投資家)
・高宮慎一氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー)
・徳生健太郎(Google 製品開発本部長)
及川卓也Google シニア・エンジニアリング・マネジャー)
・賀沢秀人(Google シニア・エンジニアリング・マネジャー)


そして、栄えある舞台に立てた参加企業は以下のとおりです(G4EW Tokyo2012 アジェンダより抜粋)。

a. イデアリスタ㈱:MYTRACKs
b. ㈱we-b:log
c. U-NOTE㈱:U-NOTE
d. ザオリア㈱:Launch App
e. TraveRing:TraveRing
f. Azcrap:ReeP
g. trippiece:trippiece
h. Orange㈱ :TRIPRO
i. 軒先㈱ :軒先パーキング
j. ライフスタイルデザイン :8ppy
k. イベントレジスト㈱ :EventRegist
l. ㈱落し物ドットコム :落し物ドットコム


顔ぶれを見て、スタートアップ界隈を賑わせている企業が数社やはり出てきています。
この中にいるイベントレジスト社はGoogle出身者が作った会社で、しかも私と同じ部署にいましたww

エレベーターピッチを見ていて、思ったのが3分間という短い時間の中で、「誰の」「どんな問題を」
「どのように解決するのか」を端的にプレゼンしなければならず、資料の見やすさ、スピードやリアル感、
何がしたいのか、というのは聞いていて各社差がありました。
KeynoteやPreziのプレゼンツールで綺麗に着飾っても、本質は上述した3つに尽きると想います。

ちなみに当社は「Andoridアプリディベロッパーがアプリをリリースする前にユーザーが本当に欲しいアプリなのかを
ヒアリングでき、クラウドソーシングでフィードバックが貰えるサービス」という流れでピッチしました。

さて、12社の中から5社が表彰対象となります。表彰は各審査員が1社づつ良いと思った企業を決めていく方式なのですが、なんとその中にLaunchAppが表彰されました!
当社はグロービス・キャピタル・パートナーズの高宮さんに選んで頂きました。

受賞理由は
1. ビジネスモデルが面白い
2. ユーザーのインセンティブ設計が上手い
3. 成長市場に目を付けている
4. マネタイズが見えている
5. 顧客の問題が明確

....と言ったあたりでした。
もしかしたらグローバルに展開出来る可能性がある、ポテンシャルを感じる、とコメントを頂きました。
そして、表彰された企業には25日に発売されたNEXUS7を頂戴しました!

(ヤッター!会社の検証機として使わせて頂きます。ありがとうございました!)


イベント終了後は参加者同士の交流会があったのですが、この時は審査員の方に
LaunchAppのアドバイスを頂いていたので、他の起業家と交流が出来なかったのが心残りです。
特に川田さんからはビジネスの課題も指摘してもらい、近いうちに報告の機会も設けていただくことになったので、
今後が楽しみだと、一言頂戴しました。

どんどんLaunchAppのユーザーを増やしいてき、アプリ開発者さんの期待に答えられるサービスにしていきたいと思いました。
最後に素敵なイベントを主催してくれたGoogleとG4EW Tokyo運営スタッフ(元同僚たち)に感謝します!