スタートアップを失敗した元起業家のキャリア選択

私はザオリア株式会社というスタートアップの元経営者で、会社を清算することを意思決定した後、どのような身の振り方をするのか悩んだ。

いきなり余談だが、2月から着手している清算作業が未だに終わっておらず、会社を畳むのは本当にエネルギーがいる。
資本金が大分残っていたので、回収したいがために清算を選択したが、正直オススメしない。
また会社を閉じるのに税金を徴収されるのも辛い(友人の話しを聞いている限り、休眠させた方が楽だと思う)。


さて、話しを戻すと悩みの種は行きたいと思える会社が無かったからだ。
今までのキャリアも将来起業した際に活きると想定して選んできた。
凡人なのでそういう発想をしてしまうが、振り返れば有難いことに無駄な経験は1つも無かった。

そのためこの会社に骨を一生埋めたいと微塵も思ったことがないし、
恐らく自らスタートアップをする以外、今後も考えは変わらないだろう。


| 選択肢の洗い出し

誰かが言っていたのだが、「起業を経験すると選択肢が広がるよ」と。

確かに小規模ながら経営というものをやってみると、やらなければいけない事が日々増えて、
視点や考え方が変わり起業前に比べてビジネススキルは高まり、仕事の幅も広がった。

そこで、スタートアップを清算するにあたって次どうするか、と考えたら以下の選択肢が浮かんだ。

1.シード ~ アーリーステージのスタートアップで雑用
2.ミドル ~ レイターステージのスタートアップでビジネスオーナー/プロダクトマネージャー
3.大企業の新規事業開発
4.USのイケている企業でビジネス系職務


他にも色々とあると思うが、自分の経験と志向を整理してみて選択肢としてはこんなところかと。
また現時点ではもう一度起業したいとも思っていないし、MBA在籍期間を合わせると4年間無収入生活を送っていた自分は
正直キャッシュの限界もあったので転職をすることにした。


1.シード ~ アーリーのスタートアップ
CEOの片腕という名の雑用になって欲しい、というのがあるようだ。
Google時代に消費者行動のデータ分析経験、リクルートで鍛えられた営業馬力、MBAでの経営知識、自身でスタートアップを起こしサービスの企画構想、戦略立案と実行等がご評価を頂いた。また自分でも経営をしていたので、経営者の気持ち、特に孤独との戦いをしている事を理解出来るのは共感を呼ぶところなのだろう。

2.ミドル ~ レイターステージのスタートアップでビジネスオーナー/プロダクトマネージャー
お話しを伺っていて、私に対する評価というのが「リスクを取ってガシガシ進めていける」「起業家志向」「トライアンドエラーの経験を通して学ぶ力」等が挙げられた。また自らスタートアップでプロダクトを立ち上げた製品責任者(P/LとC/F、各種KPIの設定とチェックが出来て、その後の施策実行に移せる)人材はどうも不足しているようだ。

3.大企業の新規事業開発
新規事業開発に力を入れている大企業にとって、イントレプレナー(企業内起業家)というのは人材教育や採用のテーマだそうだ。
既存事業とは別にどんどん新しい事業を立ち上げられる人材は貴重で、起業経験者はイントレプレナーになるケースがあると聞いた。
そのため、元起業家は求められる傾向にあるみたいだ。

4.USのイケている企業
向こうでは失敗したアントレプレナーTwitterFacebookなどの大手、Squareなどに代表される新興企業へジョインしていくケースがあるみたい。


1,2,3,については実際に何人かとお話しをさせて頂き、対面者が上記を伝えてきた。
口頭で伝えられたので自分がそう判断しているが、別の視点でも視ているようにも感じた。

これら以外にも変わったところでいうと、
・ある大企業の新規事業立ち上げのカウンターパートとして参画して欲しい
・インドのスタートアップが日本法人を立ち上げるので “Country Head” をしないか
↑ 明らかに声かける相手間違っているだろうと、ツッコミたくなったw

というお誘いがあった。
また個人的には面白いな、と感じたのが「VCをやってみないか?」というのもあった。
(今選んだところがダメだったら、是非やってみたかったのは当時の本音だ)


■今後どのような経験が市場価値を高めるのか
1つは新たな収益を生み出すイントレプレナー(社内起業家)というのはますます価値が高まるし、このような人材に裁量権を持たせるべきだ。
もう1つは海外向けにビジネスを展開出来る人材だと仮説を立てた。
私は海外向けビジネスの経験が無いため、残念ながら後者の選択肢はない。
外国人相手に自社を優位に立たせるためのハードネゴシエーション、スキーム構築が出来れば会社に莫大な利益をもたらせられるので、
貴重人材であることは言うまでもない。なので、ガシガシ突っ込んでいく商社マンとか凄いなー、といつも感心する。
3つ目は一見関連性のないもの同士を結びつけるマネジメントだ。


■次にやってみたいこと
3〜5年後企業の組織はどのように変化しているのか、形態を取るべきなのか、と考えを巡らせてみた。
今まで大企業、外資の日本法人成長フェーズ、スタートアップを経験してきたので、
どうせならやったことがないことにチャレンジし、ついでに新たな経営手法を生み出してみたいと思えた。

普遍的なスキルとライフサイクルが短いスキルの2つに分けた場合、マネジメントスキルは常に改善され続ける永遠のテーマというのが私の考えだ。
また、これまでのキャリアを活かせつつ、何か記憶に残る仕事やインパクトを出せる事をやりたいと想った。


| 転職活動のこぼれ話

少しだけ転職活動をしてみたのだが、積極的にしなかった理由は以下のとおり。

1.色々探してみた結果行きたいと思える会社が少なかった
2.電車賃が勿体無いことに気づいた

ただ、久しぶりの転職活動だったので面接慣れをしておくのは意外と重要かもしれないとも思えた。

例えば、こんなやり取りでミスをしてしまった
面:「全くの未経験領域で新規サービスを立ち上げるのに業界知識はどれ位でキャッチアップ出来ますか?」
自:「1週間もあればキャッチアップ出来ます」

…と答えてしまった。これは明らかに回答ミスであった。何故ならば、理由をキチンと説明できなかったからだ。

何故一週間かというと、前々職で広告プランニングの仕事をする際に業界構造や消費者行動パターンを調べるのに約2日から5日掛けて、
知識や情報をインプットしていたためだ。
そのアプローチであったり、仕事への取り組み方をすっ飛ばしてしまった問答をしてしまったので、面接慣れをする必要を感じた。
ただし、電車賃が勿体無いので、内定を貰ったら行くと決められる会社に限る。

もう一つメリットがあるとすれば、キャリアの棚卸しと改めて自分自身を振り返る良い機会にもなり、
面接を通して自分自身でも気付かなかった課題を発見できる事が挙げられる。

またその会社の事業仮説や自身が注目している分野やサービスなどの意見もあった方が良い。
意外とこの辺のセンスを見られている印象があった。
内定を許諾した会社に関しては財務諸表の読み込みと決算短信、説明資料、過去のニュース、面接官の経歴などを情報収集した。
経営者視点、現場視点の両方でモノゴトを語れるのはスタートアップ経験者ならではとも思える。

ついでに細かい話だが、事前に面接官の名前を聞いていたので、その人のインタビュー記事やブログ、動画などもチェックして、どんな口調で話すのか、コミュニケーションスタイルの分類までも研究した。この分類に関しては有益なものなので、気が向いたら別途ブログに書いてみようかな。


| 新たなチャレンジの場

実は3月から働き始めているのだが、株式会社ミクシィに身を置いている。
1月下旬に「経営企画室のマネージャーとして、ミクシィの経営戦略を担ってみませんか?」とポジションサーチで声を掛けられた時に、
“ビビッ!!” と来るものがあった。
先に挙げた選択肢から外れていたため、当初リストにすら入っていなかった。


もちろん世間からの注目は色々な意味であることは解っている。

mixiが日本で流行って上場時にこれでもかってくらい時価総額も上がり、その後苦しい局面を迎えているのは周知の通りである。
だからこそ新たな経営戦略を立案/実行し、事業再生長に向けてリカバリーするこのフェーズがチャレンジングで面白いと思えた(今はモンストが好調で業績が急浮上中)。
変革期における経営の意思決定に関与出来るのは、中々出来ない経験である。

エンジニアはIPAに採択された優秀な人がいたり、私が籍を置く経営企画室にはよくそんな人材を集めたな、と我ながら関心するようなチームで刺激的な環境でもある。
この環境下(フェーズと優秀なチーム)なら、スタートアップの次にやるべきチャレンジだと。

それと私が考える3~5年後当たり前になっているであろうと、想像している経営戦略をこれから正に実行しようとしている事もあり、志向が一致したのも大きい。
上場企業で経営改革の一端を担い、大げさかもしれないが成功したら1つのケーススタディになるんじゃないのか、と思っている。

ハッキリ言って経営改革は私にとって未知の領域である。
なので、チャレンジングな仕事にワクワクした自分の直感に従うことにした。


| アントレプレナーの価値とは?

転職活動をするまで失敗の烙印を押された自分が企業に再び入れるのか、と正直心配をしていた。

ニュースでは「〇〇会社が△△万円資金調達した!」「ユーザー〇〇万人突破!」と明るい話題しか取り上げられない。
そのような “日の当たる人達” に比べて、事業を畳むことを意思決定した私はハッキリ言って負け組だからだ。

しかしスタートアップを清算した起業家でも、それを「経験」として評価をしてくれる企業があるのは事実である。
ただし、これについてはWEBサービスを提供している会社としか、話しをしていないから偏りはあると思うけど。
半官半民企業や人材の均質化を図る企業にとって、元起業家なんて異端児で面倒臭い奴だと思われるんじゃないかな?

それと「お前大手企業出身だからだろ!?」と突っ込みがあるかもしれないが、面接を複数やってみて90%以上はザオリア時代の話だった。
リクルートGoogleでの仕事について殆ど聞かれなかったし(経歴の自己紹介くらい)、MBAの話題は何一つ無かった。
なので、今スタートアップをやっている起業家もどんどんチャレンジをして、後悔のないように全力を尽くして欲しい。
私はスタートアップをやっていた1年ちょいの期間が今までのキャリアの中で一番成長した、と断言できるからだ。
自分の身銭を切って、胃の痛くなる日々を経験すると、会社員時代に比べてモノゴトの視え方も大分変わった。


チャレンジは自分の可能性とキャパシティを広げてくれる唯一の糧だし、例え失敗をしたとしても、自己分析/反省と経験を体系化出来ていれば高評価を得られるのではないだろうか(ある会社は元起業家を積極採用していた)。


成功失敗問わずリスクを取ったスタートアッパーが、賞賛される世の中になりつつあるのかもしれない、と今振り返ればそう思える。