予算策定の簡易マニュアルを作ってみた

稀勢の里が電撃引退発表をした2019年1月16日、傷心しきった中「予実ナイト」というDIGGLEさんが主宰したイベントに登壇をしてきた。経営企画の横の繋がりを増やすイベントはあまりなく、且つ丁度予算策定の時期とも重なり、イベントは盛況だったように思う。その際色んな方からご質問やご相談を頂いた事もあり、折角なので登壇内容を端折って書いてみることにした。

*スタートアップ向けのイベントだったこともあり、想定としては50~300名くらいの規模の会社です。また個別具体例ではないので、かなり抽象化しています。加えて規定回りや上場準備中~上場後の企業に求められる具体的なノウハウにも本ブログでは言及していないので、あまり参考にならなかったらゴメンなさい。

 

以下が本ブログの目次(3,179文字とやや多め)

  1. 経営企画としての年間の動き
  2. 予算策定の進め方
  3. 管理会計のティップス

 

経営企画のスケジュール(3月決算の場合)

"予算策定"という切り口のみで考えると、次年度予算は3月の取締役会、下半期の修正予算は9月の取締役会にて承認する場合が多いかと思う。4月に社内で予算共有、8~9月に下半期予算修正期間、10月に下半期の予算共有、1~3月に次年度予算策定期間、という流れになる。

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 振返ってみると1年のうち4~5ヶ月は予算策定に関する業務をやっているのか、と自分でもビックリだ。経営企画の業務はざっくりと2つに分かれており、

・定常型:予算策定や予実管理、管理会計業務、各会議体運営、IR、事業環境分析

・突発型:経営戦略立案、ファイナンス、新規事業立ち上げ、プロジェクトマネジメント等

定常業務の合間や同時並行でプロジェクト型業務をスポットで随時回している事が多いかも。定常業務にリソースが比較的取られてしまうことが悩みの種でもある。

 

予算策定の進め方

予算策定を進めるにあたり、関係者は以下の3つに分けて考えると良い。

A. 取締役(会)

B. プロフィットセンター・事業サイド

C. コストセンター・管理部門

便宜上この3つにしているが、下図のように機能別での切り口も作ったりすると、より立体的に事業構造が見えてくるので、手間が大変係るけど予算構成をもう1つ作るのはオススメ。

 

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予算策定の概要

大体予算策定は1月に始まり、3月の取締役会での承認、稀に臨時取締役会までもつれることもあり得る。概要としては①~⑩までの流れになる

 

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①プロジェクトの準備

12月に予算の全体像を仮に作りこみ、市場環境分析、KPIの設計、部門設計、追加&削除勘定科目の洗い出し、前年度の実績精査、管理会計の設計、財務モデリング、予算策定の進め方(e.g. トップダウン型 vs ボトムアップ型)を準備してCFOとの摺合せを年内にやっておくと後々楽になる。冬休みはひたすらエクセルで財務モデリングの土台を作るのは毎年の宿題。

②プロジェクトの合意

スケジュール、プロジェクト参加者(部長/マネージャー)、取締役会までの承認プロセス、各責任者の範囲決め、管理会計の設計、本社費配賦、投資計画、目標トップラインとボトムライン辺りを取締役陣と話し合う。

③プロジェクト開始とブリーフィング

取締役陣と合意の取れた内容を精査し、各部門長や責任者と個別で説明の時間を設ける。予め作っておいたモデリングのシートを渡し、事業計画作成のサポートをしておくと、非常に進めやすい(ここで冬休みの宿題の成果が発揮される)。

④各PCとCCの事業計画作成の壁打ち

図表の通りだが、大切なのは各事業ドライバーが何にあたるのか、ビジネスモデルやプロダクトの要諦を理解したうえで各責任者と議論をしないといけない。Product Manager目線だとFP & Aはプロダクトの事をよく理解しないまま予算策定を進めようとする、という声もたまに聞こえてくる。また管理部門とはコスト圧縮や投資インパクト(e.g. ツール導入後の生産性Before & After)あたりは重要。

・事業サイドに対しては競合動向や事業環境の情報提供、戦略の筋、KPIの議論

・管理部門に対しては間接費、大型の投資、管理会計の設計を議論

⑤取締役陣レビュー

これらを持って毎週取締役陣⇔各責任者とで事業計画のレビューを行っていく。最初は粗々だった計画も回を重ねる度に課題が浮き彫りになり、次のラウンドで宿題プラスαを持ってくることで精度が高まっていく(会社によっては合宿までやるところもあるみたい)。このやり取りは取締役会直前まで行うことが通例。

⑥財務モデリングのダブルチェック

④と⑤をやりつつ、経営企画は毎週ブラシュアップされる計画をアップデートしないといけない。その度に財務モデリングを作り込むのだが、如何せん職人芸になりやすい。そこでもう一人の経企メンバーにお願いをして、エクセルのダブルチェックを毎日やると良い(居なかったら財務でもOK)。やり方としては一日数回ファイルの更新をして、”日付け+version○○”という形式でこまめに残しておけば、何か間違いを発見した時のリスクヘッジになる。

⑦エクセルの成形

そろそろ取締役会の足音が聞こえてくる。ここからが正念場で、様々なシナリオに応対した財務モデリングを磨き上げ(例えば、楽観/ベース/悲観ケース)、タラれば、バリュードライバーの精査をして、トップラインやボトムラインの解像度をグッと上げる

⑧最終レビューと役会ストーリー

数値計画と取締役会の承認に向けたストーリー作り。どうやって話しを持って行こうか、過去の数字対比、戦略の肝など。

⑨と⑩付議資料作りと役会準備、役会承認

最終レビューでOKの出た事業計画を精査して、経営計画書に落とし込む。取締役会にてあーだこーだと議論を経て、承認してもらうよう努力する。この時ばかりはドキドキだ。その際承認を見送られたらリベンジマッチ(臨時取締役会)を実施

 

以上が予算策定の概要になる。

 

管理会計の設計

最後に管理会計の話をほんの少しだけ。予算を作り慣れていないと、あまり管理会計を意識しない事が多いように思える。先日参加させて頂いたイベントで色んな方と話しをしていると、トップラインや非財務指標は相当作りこんでいるが、事業部長~マネージャーレイヤーが事業貢献利益まで意識高く管理出来ていないのが共通課題だった。

*この会社の予実管理マジレベル高けぇー、というのがあったら勉強させてほしいです。意見交換させてください。

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 以前管理会計の記事で言及したが、大企業なら当然のようにやっている事業貢献利益までを部門予算に持たせてしまう事が、会社全体で利益意識を高めることに有効だと思う(事業部制の場合)。その際、予算管理規定や職務権限規程も整備する必要が当然あり、予算策定前に準備が整えられたら、翌年度の予実管理が綺麗に回せる。

①事業貢献利益:事業部門予算

②共通固定費:間接部門予算

③営業利益:会社予算

 上記のような3つのレイヤーを予算策定のタイミング3か月前位から管理会計の運用テストを始めて、規定回りの整備や予実管理体制も構築もしていく。そうするとスムーズに管理会計の導入までは出来る。

予算策定や管理会計の導入は様々な人間ドラマが蠢いており大変でもあるが、経営レベルを高めるのは醍醐味でもあるので、個人的には経営企画業務の中で新規事業立ち上げの次に好きな仕事だ。

何かご相談事があれば連絡ください、他社さんのお話しに興味があります。

 

 最後に

DIGGLEさんに招待されたイベントのメインテーマでしたので、次回は予算策定とセットで必要な予実管理の記事を書こうと思います。

因みに予算策定と予実管理に使える管理会計のテンプレート、フォーキャスト管理のテンプレートをnoteで販売しております。ご興味お持ち頂けましたら、ご検討をお願い致します。

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