起業する前に意識すべき5つのポイント。失敗してみて気づいた、とあるスタートアップの反省

年末にFacebookで報告をしたのだが、2012年5月に立ち上げたザオリア(株)は残念ながら清算することになった。
そこで、失敗経験を備忘録がてら記したいと思う。これから起業する人の参考程度になれば幸いである。
ただ、よくあるスタートアップの失敗話しなのと、スケーリング出来なかったので感動や目新しいことはない事は始めにお伝えしておく。
また会社を清算しようと思ったのは別に理由がある。


スタートアップが失敗する要因というのは以下の3つであると言われている。

1.カネ
2.ヒト
3.モノ(ビジネスモデルやサービス)

コレ以外にはない!と突っ込みたくなるのも一興。
(資本金はまだまだあったのだが)もちろんザオリアはこの3つ全てに当てはまる。
特にヒトとモノは密接に絡みあうということを、今回の起業経験で痛感したことでもある。

LaunchApp という「スマホアプリのユーザーテストをクラウドソーシングで提供する」サービスを運営していたのだが、
テスターとディベロッパーの獲得はまぁまぁだった。アプリテスト依頼を出し、テスターからのフィードバック1つにつき、
都度課金をするビジネスモデルの売上は安定的に入ってこなかったレベル感であった。

サービス着想は慶應ビジネススクール在籍時にCo-Creation(クラウドソーシングの一種)を研究していて、このスキームをビジネス化出来ないか、
という観点で始めたのがきっかけである。
当初はスマホユーザーにデバッグをしてもらうというのが、一番最初に思いついたビジネスだった。


|5つの失敗点/反省点について

結論から言うと全て自分の責任である、その分失敗のリスクも負った。
プロダクトの着想、仲間集め、マネジメント、と自分の力不足が原因であるのは否定しようがない。


1.顧客の課題よりアイディアから入ってしまった
ザオリアが参加していたインキュベーションプログラムでもよく「顧客の課題を見つけろ!」と有難いことに口酸っぱくアドバイスを頂いていた。
またハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授は「顧客の片付けたい用事」に着目すべきだ、と著書「イノベーションへの解」で記していた。
振り返ると、アイディア有りきから入ってしまったのが1番最初の失敗だと思う。

■個人の余剰資産/時間を活用出来ないか
個人が持て余している能力や時間を活用して、ビジネスとして成立出来ないか。
移動時間やスキマ時間を使って、お金を稼ぐ機会を増やすことが出来れば面白い。

■成長市場に目を向ける
スマートフォンの普及に伴い必ずビジネスチャンスが生まれる、とまず考えた。
そこでスマートフォンアプリを提供するアプリディベロッパーが増えていることに(当然ながら)気づき、
成長市場には正の部分もあれば、負の部分もある。その負とはアプリを作ったのにそもそもダウンロードや使ってもらえない問題があるのではないか?
という仮説を立てた。


上記2つの観点でスマホユーザーはアプリディベロッパーにとって顧客候補にもなりえると考えた。

スマホアプリ」☓「クラウドソーシング」☓「ユーザーフィードバック」が潜在市場としてあるのではないか、
またゴールドラッシュ時に一番儲かったのがツルハシを貸すビジネスだと聞いた覚えがあったので、
スマートフォンユーザーにテスターとしてアプリを触ってもらい、使いづらさやそもそも必要あるのか等のフィードバックを届けるビジネスモデルに行き着いた。


ところが、市場を考察する上でフィリップ・コトラーは「購買意欲」を以下の3つに定義している。

1. ニーズ:欠乏を感じている状態
2. 欲求 :ニーズが具現化された状態
3. 需要 :欲求に購買力/購買行動が伴う状態

LaunchApp はプロトタイプの段階からユーザーテストを沢山行ってきて「確かにユーザーフィードバックを貰いながらアプリ開発が出来たら便利」、
というご意見を頂戴していたため、市場はあると踏んでしまった。
新しいビジネスのためか、そもそもユーザーフィードバックを重ねながらアプリ開発をする習慣がないのか、
市場の読み違いが起こる原因の1つは “欲求 = 需要” と勘違いする場合かもしれない、と身を持って分からされた。


2.歪なチーム組成
ザオリアはサーバーサイド、フロントエンジニア、ビジネスディベロップメント(私)の3人で起業をした。
私以外の2人は家庭や家のローン、車持ちであり別の仕事をしながらパートタイマーとして参画し、ビジネスが軌道に載ったらフルタイムとなる予定だった。
その後もう一人Biz Dev系のメンバーが入ってきて、コアメンバーはフルタイム2名+パートタイム2名の体制になった。

進めていくうちにコミュニケーションの量、開発速度とプロダクトクオリティの問題が出てきた。
SkypeFacebook, Google+Hangouts, Backlog, ChatWork等便利なコミュニケーションツールは確かに活用していた。
しかし、ツールを介したコミュニケーションと直で行うコミュニケーションとでは「質」が違う。
プロジェクト型の開発案件をこなすような場合、それぞれがプロフェッショナルとしての役割をこなせば、
いちいち直で会って仕事をこなす必要な無いので、コミュニケーションツールは時間短縮という意味ではかなり有効的であると思う(偏見かな?)。

また週一回約60 - 120分のミーティングのみでしか顔を合わせないとやはり、チーム組成という観点では良くなかった。
普段の何気ないコミュニケーションからアイディアや解決策が出てくるため、効率化を図るがための要件だけを伝える時間の取り方では成長を義務付けられているスタートアップには不向きである、と感じた。

濃い時間を一緒に過ごすこと、どれだけ時間を共有できるかが初期のチーム組成には重要である。


開発速度とプロダクトクオリティの問題に関しては、唯でさえスタートアップはリソースが少ない中でプロダクトを開発しなければいけないのだが、
開発陣が割けるリソースが月で10 - 20時間程度であり、メインの仕事が忙しい時は全く手を付けられない状況で何一つアップデートの無い月もあったほどだ。

そのため、
・仮説立て
・機能実装
・新規開拓営業
・顧客に利用してもらう
・フィードバックを受けに行く
ユーザビリティ改善やプロダクトアップデート


というPDCAサイクルのスピードがどうしても遅くなってしまった。
勿論PIVOTも検討したが、それは後述する。

ここでは言及しないが「ビジネスの始め方」にも注意が必要である。


3.企業フェーズ毎の適材適所な人材
自分への戒めでもあるのだが、起業するまで全く意識をしていなかった。
これはとても重要だ。

出来たてホヤホヤのスタートアップ、急成長し組織化を図っているスタートアップ、スタートアップしたものの生き残ることが目的化した零細/中小企業、大企業、とカテゴリは分かれるが、微妙に求められる働き方が違い、そこで積んだ経験や仕事の癖は時には邪魔となりえる。

例えば、経営戦略に沿って組織戦略に落とし込む大企業は組織が最適化される。そのため、上層部に与えられたミッションをクリア出来る人材が必要とされる。
もちろんリーダーシップを発揮したり、状況に応じてスカンクワークス出来る人材は重宝されるので、これが全てではないが...。

しかし、出来たてホヤホヤのスタートアップにおいては各個人がイシューを定義して、自律的かつ能動的に動けるかが重要であり、動き方が全く別物である。ミーティングで決まったことしか動かないのは一見効率的に見えてるが、(リソースとの兼ね合いもある)このフェーズにおいてはあまり好ましくなかった。

また自身が能力を発揮できた前提/環境が全く変わった時に同じようにパフォーマンスを出せるかは、
私がリクルートからGoogleへ転職した時にも実感した。
同じ営業職でも短距離から中長距離走のように使う筋肉が別物で、転職当初は全くと言っていいほど使い物にならなかった経験も自身でしてきている。
再現性」がどの環境下に置かれても、必ずしも発揮できるわけではないということだ。

自己否定や今までの経験上の判断を越えた思考を出来ないと、新しい価値を創造することは出来ない。


4.ビジネスに対してどれだけ腹を括れるか
これが本当に大きなウェイトを占めていると感じた。

原体験や事業ストーリーが無いとイシューに対して、心の底からモチベーションとなりえない。
ビジネスを進めていくとユーザーからの期待や応援のメッセージも頂くことも有り、サービスを提供することの意義は確かに見出していたが、
アイディアを実現することをスタートとした自分にとって、

「これが本当にやりたいことなのか?」
「自分がやるべき事業なのか?他の人でもいいのではないか?」

常に自問自答し走り続けた1年半だった。


5.自分のビジョンを強く持つべきだった
4.と相反するところでもあるのだが、共同創業という方法を取ったことから、自分のアイディアとは言えビジョンはゼロベースで一緒に作ろう、としてしまった。
これはとても反省をしているのだが、問題意識の摺り合わせや共有、一緒にアイディアを検討した仲でない限り、発案者の自分がビジョンを作り強烈に説くべきだった。私自身のリーダーシップの欠如が原因である。



こんな事を記しているが、別に個人を否定しているわけでもないのであしからず。
フルタイム、パートタイム問わずよく頑張ってくれたと思っているし、とても感謝している。
もう一回仮に起業するならば間違いなく誘うし、チームの解散際にそのように伝えたのは事実である。
くどいようだが、現況を導いたのは全て私の意思決定のミスが重なったためであり、自分の実力不足に起因している。
優秀な起業家は起こりえる全ての問題に対して布石を打てるから、成長し続けられるのだろう。


|もしもう一回起業するなら何に気をつけるか

ところで、最近は色んな方と話しをしていて、毎日誰かしらと会っている。
で、もう一回やるの?と必ず聞かれるので、現時点では「No!!」と答えている。

起業意欲が無いわけでもないのだが、
・どうしてもこの問題を解決したい
・この人と共同創業出来るなら絶対に後悔をしない
・ビジョン達成のためにしばらくは無給でも頑張れる覚悟がある

...という状況にでもならない限り起業という選択肢はない。何よりリスクを取って失敗をしたら全てを負うのは本当にキツイ...20代だったら別だけど。
因みに共同創業を条件に挙げたのは私自身がBiz Dev系で(途中からHTMLとCSSの基本,PhotoshopFireworksを覚え、簡易ではあるがフロントもやるようになったが)プログラミングが出来ないのと、1人でやるより2人3人で共同創業したほうが成功確率が高い、というデータがあるからだ。



そこで失敗要因を整理してみて、自分の問いに対する答えをヒト・モノ・カネで考えてみた。
下記は相反することもあるが、正しいやり方というのは後日振り返ってみないと分からないものなので、組み合わせてみればいいと思っている。


■ヒトについて

PIVOTを前提とするなばら、変化を受け入れられる人
ピボットが当たり前のスタートアップで先行きが怪しくなってきたら方向転換はするべき。
達成したいゴールが一緒というのは一見素晴らしく思えてしまうが、PIVOTをするときに邪魔になるケースが有る。
実はザオリアでPIVOTをしなかった理由の1つにLaunchApp/このサービスを作るために共同創業をした、という経緯がある。
私と一緒に仕事をしたいからやる、というわけではなくアイディアに需要がありそうだから、という理由からだった。

戦略やマイルストーンを立てて、法人営業やマーケティング活動を進めるうちにこれはダメだ、と見込み違いを起こしてそのまま「決まったことをコロコロ変えるな」と言われようが、スタートアップにおいては柔軟性が必要となる。その変化を受け入れられない人とはやらない方がいい。


既存の問題にアプローチする場合
上記の点と逆になるのだが、業界に対してコミット出来る場合は思いや問題意識が一緒の人と始めるのがベストだと感じた。
例えば、大手企業が蔓延っていたり、非効率な市場、既得権益者で寡占化されていて、リプレイス出来る可能性がある場合だ。
非効率な業界に身を置き、そこで芽生えた問題意識が共通の人がいたら、有能なパートナーとなりえる。


CTOという女房役が必要
チーム組成のコミュニケーション問題、競合が出てくる中で開発スピードやサービスの質はやはり勝負の分かれ目でもある。
年下なのだが、私が尊敬しているスタートアップでCTOをやっている友人は「初期のスタートアップにおいてCEOの女房役はCTOしかいない」と言っていた。技術的な視点で経営マターを考えられる人材こそ、スタートアップのCTOとして相応しいということだ。
ここで難しいのが、プログラミングもでき経営者視点を持っているエンジニアは自ら起業をする場合が多いので、お互いを補完でき合える関係になり得る人とは中々出会えない問題がある。
仮にもう一度やるならば、今回の反省から自分でプロトタイプを作ってみようとも思えるのだが、彼曰く素人が作ったものなんて、クソの役にも立たない、直ぐに作り変えると言っていた...。正直にそう言ってくれる人こそ、やはり女房になり得る人だと感じた。


創業メンバーが揃った後の人材採用
スタートアップにおいて人材採用は死活問題だ。
とある著名な起業家が「またこの人と机を一緒に並べて仕事をしたい」と思える人を仲間に入れるべきだ、と仰っていた。確かにリファーラルが最高の採用方法だというのは疑いの余地はない。実際10人目くらいまでは全部創業メンバーの知り合い、で固めているスタートアップも多いと聞く。

ただ、私自身が経験した失敗について布石を打つならばどうするか、というと「3ヶ月から6ヶ月位仕事を依頼してみる」という方法を取る。
例えば、ジョインして欲しい優秀な方がいるとする。普段朝から働いているので、仕事終わりにミーティングに参加してもらったり、土日で遂行できるタスクを振ってみたりして雰囲気やブランドを持っていない中でもアウトプットを出せるかを判断する。
もしフィットするなら誘ってみるし、誘われた方も数ヶ月一緒に簡易ながらでも仕事をしてみて合わないな、ということになればお互いアンハッピーな状況にはならないと考えられるからだ。


■モノについて

ビジネスの始め方がアイディアからの場合
よくスタートアップ界隈で解決すべき問題(イシュー)は何か?を突き詰めろと言われている。
一方で「こんなユーザー体験を提供したい」「まだ見ぬ世界観が自分には視えている」という着想からビジネスを始める場合も多々ある。

心から達成したいと思っている成果の確固たるイメージがあったら、PIVOTを前提にスタートしてもいいと思える。
自分の場合はアイディアからスタートしたのにも関わらず、最初から成果のイメージが固まっていなかったし、事業を営んでいるうちにクリアに視えてくるだろうと、どこかで考えていたフシがあり、ビジョンはやんわりとでしかなかったのは正直に告白する。

私の認識ではPIVOTというのは、例えば富士山に登ろうとしたが吉田口登山道が途中で無くなっており、しょうがなく須走口登山道へ切り替える、
アプローチを変えるものだ。顧客候補自体が課題を課題として認識していない潜在市場に、新スキームで乗り込む場合はPMFの難易度は高いので、当然の手段だと認識している。


顧客候補の課題発見が第一優先
当たり前なのだがこれに尽きると思う。ビジネスモデルを検討する時にスタートアップの場合「既存市場」☓「新スキーム」 = リプレイスモデル、「新市場」☓「新スキーム」= クリエイションモデルの2パターンで考えないといけないが、ビジネスモデルは後回しでもいい。アプリディベロッパーにとって顧客候補スマホユーザーがテスターとなることから、クラウドソーシングのスキームで提供していたが、クラウドソーシングは根本的な解決策にならなかった。


プロトタイプを複数用意する
もしやりたい事が複数あった場合、最初は1つに絞るのではなく、複数プロトタイプを用意してもいいかと思えた。
ユーザーテストを重ねる中で「これだ!これにコミットしよう」となるまで、検討してもいいかもしれない。


■カネについて

起業前の段階からVCとコンタクトを取る
清算宣言をしてから色々な方からお声がけを頂き、年始にとあるVCの方とディスカッションをしてきた。
今回の失敗についてやVCの方自身の考えや経験、回りの事例など伺え、とても有意義な時間となった。

そんな折「もし2度目の起業をするならば、仮説の段階から一緒に事業を検討しましょう」とお言葉を頂いた。
一瞬「??」となったが、実はこのVCは事業検討フェーズから起業家と一緒に汗をかくことをしているようで、その場合プロダクトをリリースする前に投資の意思決定をされるようだ。この事ついてはインキューベーターの領分だと思っていたので、意外だった。
そういえば、私の友人が経営しているスタートアップも言われてみれば、サービスリリース前にこのVCから投資を受けていたのを思い出した。

確かに検討フェーズから一緒に動いていたら事業の確信性も高まるだろうし、何より一緒に仕事がやりやすいと思えた。


マネタイズの手段を1つ用意する
自分がやっているプロダクトのマネタイズが少し時間が掛かるようならば、副次的な仕事でキャッシュを稼ぐことはいいかもしれない。
例えば、To Bの顧客開拓力が強みであるならば、クライアント向けにマーケティングソリューションを提供するのはいい。
最近ではFacebookマーケティングはどの企業でも取り入れているので、事業シナジーというと大げさかもしれないが、仮にある場合は運用代行をすることがナレッジやノウハウを貯めこむことに繋がるなら、プロダクト浸透するまで小銭稼ぎをしてもいいかもしれない。
ただし、エンジニアのリソースを大幅に割いてしまう受託は絶対にやってはいけない。サービスを成長させることが第一優先のスタートアップなのに目の前の仕事に忙殺され、気づいたらいつの間にか生き残ることが目的化してしまう恐れがあるからだ。



|次どうするか

清算作業はまだ債権が回収できていないので、本格的には動き出せていない。
また今後どうするかも決まっておらず、じっくりと次のキャリアを考えてみようと思う。
理想は今までの経験を最大限活かせる場に居ることだと考えている。


今回のチャレンジは失敗してしまったが、やってみて気づくことも多々あった。
今まで自分が身を置かせてもらえた環境がいかに恵まれていたことか、と気付かされたし、
何より優秀な人材が集まる企業に身を置くことより、優秀な人材を自身が立ち上げた企業に引き寄せることの方が圧倒的に難しいと改めて分からされた1年半だった。

仲間集めをするにしても、やはり自分磨きは一番大切なことなので、井上伸也という人間と一緒にビジネスをやりたい!と思って頂けるようにこれからも日々精進をしていく所存である。


最後ではあるが、ご支援を頂いた関係者と友人、家族にこの場をお借りしてお礼を申し上げたい。